日本で就労する外国人には当然ながら、日常生活や仕事をするための日本語能力が求められます。就労ビザを取得するのに必要な日本語能力や、それを証明するためのテストについてご説明します。
就労ビザと日本語能力の関係について
日本での就労を希望する外国人にとってビザ取得にどれくらいの日本語能力が必要なのかと疑問や不安を感じる方が少なくありません。
日本の会社に就職したり、日本人を相手にビジネスをするのに一定の日本語能力が不可欠ですが、どれくらいの日本語能力が必要かは仕事の内容や職場環境によって違います。このため一部の就労ビザを除き、ほとんどのビザ申請では日本語能力が必須要件にはなっていません。
では日本語がまったくできなくても就労ビザを取得できるのかというとそうではなく、業務に必要な日本語能力がなければ、実際に仕事をすることはできません。つまり就労ビザの申請する際、仕事内容に応じた日本語能力を証明できなければ就労ビザは許可されないというわけです。
日本語能力が必要な就労ビザ
就労ビザの審査基準としてどの程度の日本語能力が求められるかは、就労ビザの種類や実際に日本で行う仕事の内容によって異なります。
技術・人文知識・国際業務(技人国)
就労ビザの代表格とされる「技人国」は、申請の際に日本語能力を必須としていません。ただし実際の審査では具体的な仕事内容に応じた日本語能力が求められます。
たとえばエンジニアやプログラマーの場合、上司や同僚との日常会話レベル(日常的な場面で使われる日本語)をある程度理解できれば十分だと言えます。これは後ほど説明する日本語能力試験であるJLPTのN3程度と考えられます。
一方、企画力や営業力が求められる営業の仕事や通訳・翻訳などの仕事では、さらに高いレベルの日本語能力が必要です。目安としては日常的な場面に加え、より幅広い場面で使われる日本語をある程度理解する能力(JLPTのN2程度)が求められそうです。
ちなみに大手企業などの場合、外国人の採用条件としてN2やN1の認定を必須としているところも少なくありません。
技能
「技能」の在留資格は、外国人の持つ特殊な技能を生かした仕事、たとえば調理師やパイロット、スポーツトレーナーなどの仕事に就くための就労ビザです。こうした仕事では日本語能力がそれほど必要とされないため、審査の際に日本語能力が問題になることは少ないと考えられます。
高度人材
2012年5月に始まった「高度人材」は、「高度学術研究活動」「高度専門・技術活動」「高度経営・管理活動」の3分野で高い能力を持つ外国人材にポイントを付与し、出入国管理上の優遇措置を与える制度です。
日本語能力テストは必須ではありませんが、BJTビジネス日本語能力テストのスコアが480点以上なら15ポイント、400点以上なら10ポイントが加算されます。
特定技能
特定技能は他の在留資格と異なり「日本語能力テストの合格が必須」とされています。ただし求められている日本語能力レベルは「基本的な日本語を理解することができる」程度と、それほど高くありません。
具体的にはJLPTのN4以上か、国際交流基金日本語基礎テスト(JFT-Basic)のA2以上の合格が必要です。
ちなみに介護分野の仕事に就く場合、上記の日本語能力テストに加えて「介護日本語評価試験」の合格も必須となります。
特定活動(第46号)
「特定活動」の在留資格は、他の在留資格でカバーできないさまざまな活動に適用されます。
このうち2019年5月に始まった「サービス業や製造業のための特定活動(特定活動第46号)」では、認可要件として「日本語能力試験N1またはBJTビジネス日本語能力テストで480点以上」という、非常に高度な日本語能力が求められています。
その他の就労ビザ
その他の就労ビザ、たとえば「医療」「介護」「法律・会計業務」などの在留資格にも高い日本語能力が必要です。これらの仕事はいずれも国家資格を取得しなければならず、そのため高度な日本語能力が欠かせません。
日本語能力が重視されない就労ビザの注意点
日本語能力がそれほど重視されない仕事に就く場合においても日本語がまったくできないようでは周囲とのコミュニケーションが困難です。会社側は雇用する外国人が業務や社内環境に馴染めるかどうかの確認及び把握しておくことが必要でしょう。
日本語能力の判断方法
就労ビザの審査において審査官による面接は行われません。このため外国人の日本語能力をアピールするためには何らかの「証明書類」が必要です。一般的に証明書類は以下のいずれかの方法で行われます。
学歴
日本語能力を証明する手段のひとつが「学歴」です。
日本の4年制大学や短期大学を卒業しているか、あるいは海外の大学で日本語を専攻し卒業したかがポイントとなります。これらの場合、大学の卒業証明書などを申請書類に添付します。
日本語能力試験(JLPT)
日本語能力の証明方法としてポピュラーなのが「日本語能力試験(JLPT)」です。マークシート方式で年に2回行われる試験で、日本だけでなく海外でも実施されています。
試験の評価はN1〜N5の5段階で行われ、N1が最高評価です。それぞれのレベルは以下の表の通りですが、一般的な就労ビザではN3程度(日常会話レベル)の日本語能力が必要と考えられています。
レベル | 認定の目安 |
N1 | 幅広い場面で使われる日本語を理解することができる。 |
N2 | 日常的な場面で使われる日本語の理解に加え、より幅広い場面で使われる日本語をある程度理解することができる。 |
N3 | 日常的な場面で使われる日本語をある程度理解することができる。 |
N4 | 基本的な日本語を理解することができる。 |
N5 | 基本的な日本語をある程度理解することができる。 |
日本語能力試験HP「N1〜N5:認定の目安」より
国際交流基金日本語基礎テスト(JFT-Basic)
「国際交流基金日本語基礎テスト(JFT-Basic)」は、2019年4月に始まった「特定技能」制度に合わせて新設された日本語能力テストです。試験はコンピュータ上で行うCBT方式で、2か月に1回行われます。
試験の評価はA1・A2・B1の3段階で、B1が最高評価です。一般的な就労ビザに必要とされるのはA2レベルです。
レベル | 認定の目安 |
B1 | 仕事、学校、娯楽で普段出合うような身近な話題について、標準的な話し方であれば主要点を理解できる。 その言葉が話されている地域を旅行しているときに起こりそうな、たいていの事態に対処することができる。 身近で個人的にも関心のある話題について、単純な方法で結びつけられた、脈絡のあるテクストを作ることができる。経験、出来事、夢、希望、野心を説明し、意見や計画の理由、説明を短く述べることができる。 |
A2 | ごく基本的な個人的情報や家族情報、買い物、近所、仕事など、直接的関係がある領域に関する、よく使われる文や表現が理解できる。 簡単で日常的な範囲なら、身近で日常の事柄についての情報交換に応ずることができる。 自分の背景や身の回りの状況や、直接的な必要性のある領域の事柄を簡単な言葉で説明できる。 |
A1 | 具体的な欲求を満足させるための、よく使われる日常表現と基本的な言い回しは理解し、用いることもできる。 自分や他人を紹介することができ、どこに住んでいるか、誰と知り合いか、持ち物などの個人的情報について、質問をしたり、答えたりできる。 もし相手がゆっくり、はっきりと話して、助け船を出してくれるなら簡単なやり取りをすることができる。 |
JFT-Basic 国際交流基金日本語基礎テストHP「JFT-Basicとは」より
BJTビジネス日本語能力テスト
「BJTビジネス日本語能力テスト」は日本漢字能力検定協会が主催する日本語能力テストです。試験はコンピュータを使うCBT方式で、ほぼ毎日実施されています。
BJTの試験内容は、ビジネス方面に特化しているのが特徴です。主に「高度人材」のポイント認定や留学生の「留学生の就職支援に係る『特定活動』」の要件などに利用されます。
レベル | 認定の目安 |
J1+ 600〜800 | どのようなビジネス場面でも日本語による十分なコミュニケーション能カがある。 日本語に関する正確な知識と運用能力がある。 どのようなビジネス会話でも正確に理解できる。 会議、商談、電話の応対などで相手の話すことが正確に理解できる。 対人関係に応じた言語表現の使い分けが適切にできる。 どのような社内文書やビジネス文書でも正確に理解できる。 日本のビジネス慣習を十分理解している。 |
J1 530〜599 | 幅広いビジネス場面で日本語による適切なコミュニケーション能カがある。 日本語の知識・運用能力に問題が一部あるが、意思疎通に支障はない。 幅広いビジネス会話が正確に理解できる。 会議、商談、電話での応対などで相手の話すことがおおむね理解できる。 対人関係に応じた言語表現の使い分けがある程度できる。 日常的な社内文書やビジネス文書が正確に理解できる。 日本のビジネス慣習をおおむね理解している。 |
J2 420〜529 | 限られたビジネス場面で日本語による適切なコミュニケーション能力がある。 日本語の知識・運用能力に問題が一部あり、意思疎通を妨げることがある。 日常のビジネス会話がおおむね理解できる。 会議、商談、電話での応対などで相手の話すことがある程度理解できる。 対人関係に応じた言語表現の使い分けが少しできる。 日常的な社内文書やビジネス文書がおおむね理解できる。 日本のビジネス慣習に対する理解がある程度ある。 |
J3 320〜419 | 限られたビジネス場面で日本語によるある程度のコミュニケーション能力がある。 日本語の知識・運用能力に問題があり、意思疎通を妨げることが多い。 日常のビジネス会話の簡単なものがおおむね理解できる。 会議、商談、電話での応対などで相手の話すことが少し理解できる。 対人関係に応じた言語表現の使い分けが断片的にできる。 日常的な社内文書やビジネス文書の基本的なものがある程度理解できる。 日本のビジネス慣習に対する理解が少しある。 |
J4 200〜319 | 限られたビジネス場面で日本語による最低限のコミュニケーション能カがある。 日本語の知識・運用能力に問題が多く、意思疎通できることが少ない。 ゆっくり話された簡単なビジネス会話がおおむね理解できる。 対人関係に応じた言語表現の使い分けはできない。 日常的な社内文書やビジネス文書の基本的なものが断片的に理解できる。 日本のビジネス慣習に対する理解が断片的にある。 |
J5 0〜199 | 日本語によるビジネスコミュニケーション能力はほとんどない。 断片的な日本語の知識しかなく、日本語の運用能力はきわめて不十分である。 ゆっくり話された簡単な会話が部分的にしか理解できない。 日常的な社内文書やビジネス文書は理解できない。 日本のビジネス慣習に対する理解がない。 |
BJTビジネス日本語能力テストHP「レベル&サンプル」より
最後に
就労ビザの申請においてほとんどのケースで日本語能力の証明が必要です。就労ビザ申請を行う方は日本での活動内容(仕事内容)に応じた日本語能力を身に付けるとともに、大学の卒業証明書や日本語能力テストの認定証などの「証明資料」もしっかりと取得しましょう。